第6回:不許可になる主な理由5つ|入管の視点で考えてみる

なぜダメなのかを逆算で理解する ― 該当性・基準適合性・相当性の3軸から解説
在留資格申請が「不許可」になったとき、入管庁は感情ではなく明確な基準で判断しています。
その判断軸は3つです。
1️⃣「該当性」:申請活動が資格に合っているか
2️⃣「基準適合性」:省令で定める条件を満たしているか
3️⃣「相当性」:素行や活動、労働条件などが社会的に妥当か
この記事では、実際の審査の視点から主な不許可理由5つを解説して
最後に申請に使える付録3点(JD・関連性マップ・業務比率表)を掲載します。
❶ 該当性の不足 ─ 仕事内容が資格に合っていない
在留資格は「できる活動」を限定した制度。
したがって、申請した活動が資格の定義に当たらない場合は不許可となります。
例
- 技術・人文知識・国際業務資格の申請なのに実態は単純労働(接客・配膳・清掃)中心。
- 「国際業務」と言いつつ、翻訳・通訳が一部のみで実務は販売業務。
✅ 審査官のチェック
- 業務内容と資格の定義の一致
- 「専門的・技術的な知識の活用」が主であるか
- 主従関係:専門業務が主たる業務になっているか
対策:
- 職務記述書(JD)に「専門知識をどの業務で活かすか」を具体的に記載する
- 国の「明確化資料」に沿って、専門業務比率>非専門業務に調整
❷ 基準適合性の欠如 ─ 学歴・経験・報酬が要件を満たさない
基準省令で定められる「学歴・実務経験・報酬条件」を満たしていないと不許可になります。
例
- 学歴は、関連分野外かつ実務年数が基準未達
- 給与額が「日本人と同等以上」ではない(同職種比で低すぎる)
対策:
- 学位証明書・職務経歴書で業務との関連性を明示する
- 給与は、労働市場の平均(職種・地域別)を根拠に「同等以上」を示す
❸ 相当性の欠如 ─ 素行・活動・実態が不適切
在留資格の変更・更新審査では、「現行活動の適正」や「素行」も評価対象になります。
よくある不許可例
- 留学生が長期間登校せず、実質的に退学状態
- 就労資格者が資格外活動を超過(週28時間超など)
- 行政罰・軽犯罪歴がある場合
対策:
- 学校・勤務先からの在籍・出勤証明書を添付
- 資格外活動許可証の有効性・時間管理表を確認
- 過去の違反がある場合は、改善措置書を添える
❹ 雇用主・受入機関の信頼性不足
審査は「本人」だけでなく、「受入機関(会社)」の実体も重視されます。
よくある問題
- 設立直後で実績・財務基盤が不十分
- 雇用契約書の内容が労働基準法に適合していない
- 外国人雇用状況届出の未提出
対策:
- 登記簿謄本・決算書・事業計画書を添付
- 雇用契約書・就業規則を整備
- 労基署提出済の36協定届、社会保険加入証明を併せて提出
❺ 公的義務の不履行 ─ 納税・届出を怠っている
入管庁は、納税状況・届出の履行状況も「社会的信頼性」として評価します。
例
- 市県民税・年金・健康保険料の滞納
- 住所変更・所属機関変更の届出遅延(14日ルール違反)
対策:
- 直近の納税証明書を添付
- 遅延届出には「理由書+証拠書類」で誠実に説明
- 第5回の記事(在留カード手続)で紹介した14日ルールの徹底を意識
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まとめ:入管の判断構造(テキスト図)
1. 該当性(活動内容が資格定義に合うか)
2. 基準適合性(学歴・経験・報酬が基準を満たすか)
3. 相当性(素行・労働条件・納税・届出の誠実性)
この3段階で総合評価されるために
「どの段階で落ちる可能性があるか」を逆算して資料を整えることが不許可回避の最短ルートです。
🧾 不許可回避チェックリスト
| 区分 | チェック内容 |
|---|---|
| 該当性 | 仕事内容が資格の定義に合っているか(専門業務比率が主) |
| 基準適合性 | 学歴・実務経験・報酬が基準省令を満たしているか |
| 相当性 | 在籍・勤務実態・素行・資格外活動の範囲が適正か |
| 雇用主 | 労働契約書・登記簿・決算書・社会保険加入を確認 |
| 義務履行 | 納税・届出・カード再交付などが期限内か |
💬 Q&A
Q1. 「仕事内容が専門的」と言えないケースとは?
→ 誰でもできる単純作業(接客・搬送・配膳など)が主で専門知識が従になっている場合。
Q2. 学歴が関連分野でなくても通る?
→ 実務経験(10年以上など)で代替可。ただし、職務内容との関連性を資料で明確化する必要あり。
Q3. 雇用主が新設法人でも大丈夫?
→ 実体と継続性を説明できればOK。契約書・発注書・資金計画を添付して信頼性を補う。
Q4. 納税未済があっても申請できる?
→ 原則不可。申請前に完納・分納手続を済ませて納税証明書(その3)を添付する。
📚 付録:実務に使える3ツール
① 職務記述書(JD)テンプレート
| 項目 | 内容記載例 |
|---|---|
| 職種 | 通訳・翻訳業務(国際業務) |
| 主な業務内容 | ・海外取引先とのメール・契約書翻訳 ・外国語マニュアル作成支援 ・社内研修における語学指導 |
| 活用する専門知識 | 英語学・国際コミュニケーション |
| 非専門業務(補助的業務) | 電話応対・資料整理など |
| 主従関係 | 専門業務70%/補助業務30% |
| 雇用形態 | 正社員(期間の定めなし) |
| 給与水準 | 月給30万円(同職種日本人と同等) |
② 学歴・実務の関連性マップ(サンプル)
| 学位/経験 | 関連する業務 | 活用する知識・スキル |
|---|---|---|
| 外国語学部英語学科卒 | 契約書・マニュアル翻訳 | 英語文書作成・国際取引用語 |
| 前職:商社営業3年 | 貿易書類の作成 | 貿易実務・国際法基礎 |
| 現職:翻訳担当 | 通訳・海外顧客対応 | 多文化間交渉・英語運用能力 |
③ 業務比率表(主従関係の明示)
| 業務項目 | 割合 | 区分 |
|---|---|---|
| 契約書翻訳・作成支援 | 40% | 専門業務 |
| 英文マニュアル作成 | 30% | 専門業務 |
| 顧客通訳・会議支援 | 20% | 専門業務 |
| 受付・資料印刷 | 10% | 補助業務 |
💡 合計:専門業務90%以上を目安に設計。
非専門業務が主になると「該当性なし」と判断されるおそれ。
🔚 まとめ
- 不許可の多くは「該当性」段階で止まる。
- 書類の形式より業務実態と証拠の整合性が最重要。
- 行政書士は、申請者と企業の“橋渡し役”として論理と誠実さの両面でサポートすることが信頼への第一歩です。
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