農地に家を建てたい:親の農地に子どもの家は建てられる?農地法5条の許可基準(立地基準・一般基準)と手続きの流れ

1.よくある相談
Aさんは専業で農業をしています。Aさんは市街化区域外(いわゆる市街化調整区域や、それに準ずる農村エリア)に農地を持っています。
その農地の一部を後継ぎである息子Bさんの住宅用地として使いたい(家を建てたい)と考えています。
この場合、そのまま畑を整地して家を建てることはできません。
まず「農地ではなく宅地にする」=農地転用の許可が必要になります。
農地の転用は、農地法で厳しく管理されており許可なしで家を建てると違法扱い・原状回復の対象になることがあります。
2.どの手続きになる?4条?5条?
農地法は、転用の場面ごとに条文が違います。ここを誤ると手続きが止まります。
- 農地法4条許可
→ 自分が持っている農地を自分で農地以外に使う(売らずに自分のまま家を建てる)場合。 - 農地法5条許可
→ 農地を売ったり貸したりして、別の人が農地以外の用途に使う場合(例:親名義の農地を息子名義に移して、息子名義で住宅を建てるケース)。
Aさんのパターンは「父が持っている農地の一部を息子(別人)が住宅用に使う」。
これは農地法第5条の許可が基本になります。権利の移転(売買・贈与・賃貸など)+転用があるからです。
※もし名義を動かさず「父の名義のまま父が家を建てて息子が住む」等の構成にできるなら理屈の上では4条のルートの検討もあります。
ただし、現実は金融機関の住宅ローンや相続・登記の関係で「息子名義にしたい」というニーズが多いので、5条を申請するケースがほとんどです。
3.結論からいうと、許可は「場所」と「計画」で決まる
農地転用の許可は、2つの基準の両方を満たさないと下りません。
1つでもダメなら不許可になります。
- 立地基準(その土地がどのランクの農地か?)
- 一般基準(本当にその計画を実現できて、周りの農地に迷惑をかけないか?)
以下、順番に説明します。
4.立地基準:その農地でそもそも家を建ててよい場所なのか
立地基準は簡単に言うと「その農地はどれくらい守るべき農地なのか?」という視点です。
農地は、農業上とても重要なエリアから市街地に近くて将来住宅になることが想定されているエリアまで区分されています。
代表的な区分イメージは次のとおりです(自治体ごとに表現が微妙に違うことがあります)
- 農用地区域内農地(青地)
- 市町村の「農業振興地域」の中で農業に使うべき土地として指定された農地。
- 原則として転用許可は出ません。まず「農振除外」という別手続きをしてから、その区域から外さないと家は建てられない、という時間のかかる超ハードモードです。
- 甲種農地・第1種農地
- 生産性が非常に高い農地、大規模にまとまった優良農地、公共投資(ほ場整備など)で高い生産性が確保された農地など。
- ここも原則NGです。公益性の高い公共事業などかなり限定的な例外を除いて、個人住宅ではまず認められないと考えたほうが現実的です。
- 第2種農地
- 周辺に住宅や工場が増えつつある、将来的に市街化が見込まれる場所。
- 「どうしてもそこじゃないといけない理由」が説明できれば、許可の余地があります。ただし、もっと条件の悪い農地(第3種に近い場所など)で代替できるのでは?と必ず聞かれます。みんなの経営応援通信+3豊橋市公式ホームページ+3埼玉県公式サイト+3
- 第3種農地
- もはや市街地と一体的になりつつある場所。周囲が宅地・工場・道路など非農地化しているエリア。
- 個人住宅のような転用が一番通りやすいゾーンです。ただし、後述の「一般基準」については別にチェックされます。
ここでAさんの息子Bさんの家はどこに建てたいのか?が運命を分けます。
- 青地・甲種・第1種の農地 → 住宅目的ではほぼ不許可
- 第2種農地 → 厳しいけど可能性あり(理由付け・代替検討が勝負)
- 第3種農地 → 許可されやすい
つまり「どの区分の農地なのか」を最初に役所で確認することがスタートになります。これは農業委員会、農政課、都市計画担当などで照会できます。
【立地基準まとめ】──「どの場所の農地か」で判断される基準
| 区分 | 内容 | 許可の可否 | 主な対応策・ポイント |
|---|---|---|---|
| 農用地区域内農地(青地) | 農業振興地域整備計画で「農業専用」と指定された農地。 | ❌ 原則不許可 | まず農振除外手続が必要(受付は年数回のみ)。除外後に転用申請へ。 |
| 甲種農地 | 高生産性で10ha以上の一団農地など。 | ❌ 原則不許可 | 公共事業等の例外を除き、個人住宅では不可。 |
| 第1種農地 | 公共投資が行われた優良農地。 | ❌ 原則不許可 | 農地以外での利用が著しく困難な場合を除いて認められない。 |
| 第2種農地 | 一部市街地に隣接。周囲に住宅や工場が点在。 | △ 条件付きで可 | 代替地の有無・必要性・周辺環境で判断。理由書を添付。 |
| 第3種農地 | 市街地化が進行し、周辺も宅地化。 | ⭕ 許可されやすい | インフラ整備・排水計画を明確に。農業への影響がなければ認められやすい。 |
💡 ポイント:
「青地」「甲種」「第1種」は農業保護が最優先です。
住宅を建てたい場合は、まず農振除外の可否を農業委員会等へ確認しましょう。
市街化区域と市街化調整区域で何が違う?
- 市街化区域:都市計画上「ここは家や店をどんどん建てていいよ」というエリア。そこにある農地は基本的に届出で済む特例があるため、許可ハードルが低いケースがあります。
- 市街化調整区域:原則として新しい住宅を建てないエリア。農地転用の許可に加えて、都市計画法上の開発許可など別の壁もある「二重チェック」になります。gyo338.jp+2nochi-kaihatsu.com+2
今回Aさんは「市街化区域外」とのことなので、多くの場合は市街化調整区域など規制の厳しい側と想定されます。
ここは本当にハードルが高いです。農地法だけでなく都市計画法側の許可も見られるので、単純に「農地法だけ通ればOK」では終わりません。gyo338.jp+2nochi-kaihatsu.com+2
5.一般基準:計画そのものが本当に成り立つか
立地基準をクリアできそうでも、計画がずさんだと許可は出ません。これが「一般基準」です。農地の区分とは関係なく、どの農地でもチェックされます。
審査される主なポイントはこうです:
- 計画の確実性
- 本当に家を建てる具体的な計画か?建築プランや配置図があるか?
- 資金の裏付けはあるか(ローン審査の見込みなど)。
- 関係者(親の承諾、水利組合、隣地など)の同意は得られているか。
- 他の法律(都市計画、建築基準、開発許可など)も通りそうか。
「希望です」「いつか家を建てたいんです」レベルではNGです。
- 周辺農地への悪影響がないこと
- 住宅造成による雨水の排水で隣の畑が水浸しにならないか。
- 日照・風・騒音などが近隣の営農を妨げないか。
- 農業用水路や農道をつぶしてしまわないか。
この「近隣の農家とのトラブルにならないか」は本当に重視されます。
- インフラ条件
- 接道(道路にきちんと出入りできるか)
- 上下水道・浄化槽等の処理はどうするか
- 電気・ガスなど生活インフラが確保できるか。
インフラが整わず、生活できない計画は許可されません。
- (一時的な利用の場合のみ)原状回復の確実性
今回は、恒久住宅なのでここは関係しませんが、資材置場など一時利用の場合は「終わったらちゃんと畑に戻せるの?」というチェックがあります。
まとめると、
- 「どこに建てるか」(立地基準)
- 「本当に建てられるのか、安全に周囲の農業に迷惑なく」(一般基準)
この両方に〇がつかないと許可は出ないということです。
【一般基準まとめ】──「どんな計画か」で判断される基準
| 判定項目 | 内容 | 審査ポイント |
|---|---|---|
| 転用の必要性 | 他の場所ではなく、その農地を使う理由。 | 「後継者住宅」など地域農業に資する合理的理由があるか。 |
| 計画の確実性 | 資金・工程・施工者が明確か。 | 建築図面・資金計画・ローン審査など裏付けがあるか。 |
| 周辺農地への影響 | 日照・排水・用水・作業道などへの影響。 | 隣接農地に支障がない設計になっているか。 |
| 農業用水系の保全 | 水路や暗渠への影響。 | 水利組合との協議・同意が取れているか。 |
| インフラの整備状況 | 道路・上下水道・電気などの整備。 | 生活基盤が整っているか(ない場合は整備計画を提示)。 |
| 環境・景観への配慮 | 騒音・粉じん・悪臭・景観など。 | 環境に悪影響がないことを証明。 |
| 関係法令との整合性 | 都市計画法・建築基準法など。 | 他法令での許可が見込まれるか。 |
💬 ポイント:
「どんなに立地が良くても、計画があいまいなら不許可になります」
逆に「計画が確実で周囲に迷惑がなければ、第2種・第3種なら許可の可能性があります」。
6.手続きの流れ(実務イメージ)
行政書士としての進め方イメージも読者に安心してもらえるよう置いておきます。これは実際の相談フローにかなり近いです。
- 事前ヒアリング
- 土地の場所、地番、面積、現況(畑・田・果樹園など)
- 誰名義に家を建てるのか(父?息子?)
- 建てたい建物の規模・用途(完全な居住用なのか、住居兼事務所なのか)
- 立地状況の確認
- その農地が「農用地区域(青地)か」「第1種・第2種・第3種農地か」などを役所で照会してもらいます。
- ここで青地・第1種レベルだと判明すると一気に難易度がわかります。「正直そこは難しいです」と言わざるを得ないケースも出ます。
- 都市計画・開発許可チェック
- 市街化調整区域の場合は「そもそも家を建てていいエリアか?」が都市計画法で問われるので、開発許可(あるいは農家分家住宅などの例外)が取れる見込みがあるかを事前に確認します。農地法だけクリアしても、都市計画法がダメだと建てられません。
- 一般基準ヒアリング
- 排水計画、進入路、上下水道、近隣農家への影響、建築資金、建築会社(だれがいつ建てるのか)を詰めます。
- ここがあいまいだと、役所は「計画が確実ではない」と判断します。
- 申請書類の作成・提出
- 位置図、公図、登記事項証明書、造成・排水計画、建築計画概要図、親子間での売買(または賃貸)契約予定内容など。
- 多くの自治体では、まず農業委員会に相談・提出して、そこから都道府県知事の許可(面積が大きい場合は農林水産大臣協議)という流れになります。
- 補正対応
- 役所から「排水ルートを示してください」「水利組合の同意をつけてください」などの指摘(補正)が入ることがよくあります。そこを詰めていき、納得してもらう形にします。
- 許可 → 建築確認へ
- 農地法の許可(or届出受理)が下りたら、最終的には建築確認申請のステージへ進みます。建築確認では、農地法・都市計画法などに適合していることを示す書類(許可証、いわゆる「60条証明(都市計画法施行規則)」など)が必要とされることがあります。
7.よくある勘違い・落とし穴
最後に「そこで引っかかると終わり…」というポイントを整理します。
- 「うちの子だから家くらい建てられるでしょ?」は通用しない
→ 親族だから許可が甘くなることはありません。エリアの区分と基準で機械的に見られます。青地や第1種レベルの農地は、親子住宅でも基本はNGです。 - 市街化調整区域は壁が2枚ある
→ 農地法の許可(立地+一般)に加えて、都市計画法側の開発許可・建築可否が別に審査されます。農地法だけ突破しても家が建てられないことがあるので、都市計画サイドも同時に確認するべきです。 - 「とりあえず更地にしておきます」は危険
→ 許可前に勝手に盛土・造成・整地してしまうと、無許可転用とみなされるリスクがあります。事後での正当化はほぼ不可能と思ってください。 - 近隣との水は命綱
→ 排水や水路の扱いでもめると、許可より後の近隣トラブルが一気に深刻化します。水利組合との話し合い、排水計画図の準備はかなり重要です。
8.まとめ(読者へのメッセージ)
- 親の農地に子どもの家を建てるには、「農地法5条の許可」が必要になるケースが多い。名義の移転+農地転用だから。
- 許可は「立地基準」と「一般基準」の両方を満たしたときだけ。どちらか1つでもダメなら不許可。
- 特に市街化区域外(市街化調整区域など)では、都市計画法の壁もある。農地法OK=家が建てられるではない。
- 申請は、農業委員会への事前相談→書類準備→都道府県知事(規模次第で農林水産大臣協議)という流れで進む。
行政書士として現場で一番大事なのは
「建てたい土地がそもそも許可ゾーンなのか」を最初に確認することと
「周りの農家と揉めないか・インフラは整うか」を事前に固めることです。
Aさんと息子さんのような「親の畑に息子の家」というケースは珍しくありません。
ただし、場所・計画・手続きは一件ごとに全く違います。
読者のあなたがもし同じ状況なら、
・農地の場所(農用地区域か?第何種農地か?)
・エリア(市街化区域?それとも市街化調整区域?)
・建てたい建物のイメージ(誰が住む?何階?排水は?)
この3つをメモして最寄りの農業委員会か専門の行政書士に相談してください。これが一番早いスタートラインになります。
――以上、きりゅう行政書士事務所より。
「農地に家が建てられるのか?」は感情の問題じゃなくて、制度の問題。
そこを正しく案内していくのが私の役目です。
💬 お問い合わせは → きりゅう行政書士事務所(公式)


