行政書士が解説|営業保証金と保証協会の違い|いくら必要?どちらを選ぶ?【宅地建物取引業の資金計画】第4話

「宅建業の免許は取りたいけど営業保証金が1,000万円?ハードル高いな」
「保証協会に入れると聞いたけど、営業保証金とどう違うの?」
宅地建物取引業(以下、宅建業)を始めるとき、営業保証金を自分で供託するか、または保証協会に加入するか を選択します。
この記事では
- 営業保証金の金額と仕組み
- 保証協会を選択した場合の費用
- 新規開業ではどちらが現実的なのか
- よくある勘違いと注意点
を行政書士の視点でわかりやすく整理します。
1. 営業保証金とは?金額と仕組み
1-1 営業保証金の金額
宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)は原則として取引の相手方を守るために「営業保証金」を供託する義務があります。
- 主たる事務所(本店):
→ 営業保証金 1,000万円 - 従たる事務所(支店):
→ 1か所ごとに 500万円 を加算
(例)本店+支店1か所
→ 1,000万円+500万円=1,500万円の供託が必要
※実際、保証協会に加入した宅建業者は、この営業保証金の供託が免除される仕組みになっています。
1-2 どこに預けるのか?
営業保証金は、法務局(供託所) に供託します。
- 免許権者(知事/大臣)ごとに定められた供託所があります
- 供託が完了したら、その旨を免許権者に届出し、初めて宅建業の営業ができるようになります。
✅ ポイント
営業保証金は、預けっぱなしで、原則として手元資金としては使えません。
開業時に数千万円を現金で確保するのは現実的ではないため、ほとんどの中小事業者は保証協会への加入を選択します。
2. 保証協会とは?弁済業務保証金分担金の仕組み
2-1 「保証協会に入れば60万円でいい」は本当か?
宅建業者が 指定保証機関(宅建業法に基づく保証協会) に加入すると営業保証金を供託する代わりに
弁済業務保証金分担金
をその保証協会に納めることで手続きを済ませることができます。
新規開業時に主たる事務所について60万円 を納めるのが典型的なイメージです。
- 本店:60万円(入会金・年会費など別途要)
- 従たる事務所:30万円(1か所につき)
※保証協会入会金等の金額・内訳は、加入予定の保証協会(全宅保証/ハトマーク系など)の最新の会則・説明資料で確認する必要があります。
2-2 なぜ営業保証金が不要になるのか?
保証協会は
会員業者同士でお金を出し合って共同の保証金プールを作っておいて、万一のときに消費者に損害を弁済する仕組み
です。
営業保証金を個別に1000万円供託する代わりに保証協会が「弁済業務保証金」を供託してくれます。
3. 営業保証金 vs 保証協会:費用とキャッシュフローの比較
3-1 新規開業者の典型パターン
パターンA:営業保証金を供託する場合
- 本店のみ:1,000万円 を供託
- 支店1か所あたり:500万円 追加
→ 開業時に数千万円規模の拘束資金が必要に
→ 中小規模の新規開業では現実的でないことが多い
パターンB:保証協会に加入する場合
- 弁済業務保証金分担金:
本店分 60万円程度(協会により違いあり) - 保証協会入会金・年会費等:別途数十万円規模
→ 初期負担は百数十万円程度に抑えられるケースが多い
✅ 行政書士としての現実的アドバイス
- 資金力が非常に豊富な会社
→ 営業保証金供託という選択肢もあり- 一般的な中小の新規開業者
→ 例外なく「保証協会加入」が実務上の選択肢
4. 保証協会を選ぶときの注意点
4-1 加入審査と準備期間
保証協会は、宅建業者なら誰でもすぐ加入できるわけではありません。
- 事務所の実態
- 財務状況
- 代表者・役員の経歴 など
をもとに、各都道府県独自の加入審査があります。
🔍 注意ポイント
- 免許が出てから考えればいいかと後回しにすると、協会の審査や手続きに時間がかかり営業開始が大幅に遅れる ことがあります。
- 免許申請と並行して、保証協会の支部に事前相談しておくと手続きがスムーズです。
4-2 ランニングコスト(年会費など)
保証協会に加入すると、
- 入会金
- 弁済業務保証金分担金
- 年会費・支部会費
など、継続的な費用がかかります。
営業保証金1000万円を預けっぱなしと比べると、初期の負担は軽いけれども毎年の会費負担は続く という構造です。
5. よくある勘違いと落とし穴
① 免許さえ下りれば営業できると思っていた
→ 保証協会の加入手続き → 弁済業務保証金分担金の納付 → 行政庁への届出が完了して、初めて営業開始が可能です。
② 営業保証金を「普通預金に積んでおけばいい」と勘違い
→ 営業保証金は、法務局への供託 が必要です。
単に金融機関の口座に預けておくだけでは要件を満たしません。
③ 保証協会の費用はどこも同じだと思っている
→ 加入金・年会費・支部会費・研修等は、各都道府県の協会や支部によって異なります。
必ず 最新のパンフレット・ホームページで確認 しましょう。
6. 開業前に考えておきたい「お金の順番」
宅建業でスタートダッシュに失敗しないためには、次のようなお金の優先順位をイメージしておくと良いです。
- 事務所の家賃・保証金(敷金等)
- 保証協会の弁済業務保証金分担金・入会金・会費
- HP制作・広告宣伝費
- 人件費(専任の宅地建物取引士を含む)
- 運転資金(数か月分)
行政書士は、許認可の相談+資金繰りのシミュレーションまで一緒に考えていきます。
7. Q&A(よくある質問)
Q1. 営業保証金を準備できる資金力があります。それでも保証協会の方がよいですか?
A. ケースバイケースですが、保証協会の方が実務上便利な場面が多いです。
- 営業保証金は「預けっぱなし」で運転資金として使えない
- 保証協会は、年会費等の負担があるが各種情報提供・研修・トラブル対応などのメリットもある
資金的に余裕があり、協会に縛られず完全に自社で完結させたいというスタンスでしたら、営業保証金の供託という選択肢もありです。
Q2. 途中で「営業保証金 → 保証協会」に変更できますか?
A. 可能です。
- すでに営業保証金を供託している場合
→ 保証協会に加入し、弁済業務保証金分担金を納付したうえで営業保証金の取戻し手続き を行うことができます。
変更時の具体的な手続きは
- 所管行政庁
- 保証協会
の両方に確認しながら進めるのが安全です。
Q3. 保証協会に加入しないと、宅建業の免許は取れませんか?
A. いいえ。免許自体は「営業保証金供託」でも取得できます。
- 新規開業で1,000万円を供託するのは負担が大きいため、多くの事業者が保証協会加入を選んでいるというのが実情です。
8. 【○✖️クイズ】営業保証金と保証協会
Q. 保証協会に加入した場合は、営業保証金を法務局に供託する必要はない。
9. まとめと次回予告
今回のポイント
- 営業保証金は、本店1,000万円+支店500万円ずつの供託が必要。
- 保証協会に加入すれば、営業保証金の供託は不要となり、代わりに 弁済業務保証金分担金(例:本店60万円)+入会金・年会費 を負担する。
- 新規開業の多くは、資金負担と実務サポートの観点から 保証協会加入 を選択している。
- 免許申請と並行して、保証協会支部への事前相談を進めておくと、営業開始までのタイムラグを最小限にできる。
次回(第5話)は、「標識(業者票)・帳簿・35条書面・37条書面」 をテーマに営業開始後に必ず必要となる 実務書類セット を整理していきます。


